ワードパレット -No.11- 灰色、無音、鏡

彼は話しだした。
自分の世界は一枚の薄い膜を通したが如く、全てがぼやけて虚ろで音も届かないか、或は酷くくぐもって聞こえる様であった。
色彩は死に、耳を傾ける音のない世界。
だから今はとても嬉しいんだよ。鏡を見るように向かい合う同じ容姿の人間が全く楽しそうに生きている。これ程興味深い事は無い。
清々しい程に理知的な眼差しで彼は自分を見つめた。
いっそ狂人であれば良かったのにと、わかばはぼんやりと考えた。