一太郎とJustPDFだけで隠しノンブル付PDFを作ろう第二回目
前回までの作業でそれぞれ右と左にノンブルが振られた二つのファイルが出来上がりました。
こんどはこれを分割して、目標であるノド側にノンブルが振られた一つのファイルを作っていきます。
続きからどうぞ
一太郎とJustPDFだけで隠しノンブル付PDFを作ろう第二回目
前回までの作業でそれぞれ右と左にノンブルが振られた二つのファイルが出来上がりました。
こんどはこれを分割して、目標であるノド側にノンブルが振られた一つのファイルを作っていきます。
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この内容はInDesignを使わないで隠しノンブルPDFを作る方法の一つを公開した物です。
かなり面倒な手順を踏んでいますので、どうしてもInDesignの為だけにAdobeCCを使うのは……という方でない場合、とても面倒くさいです。
大まかな手順は以下の通りとなります。
使ったソフトウェア
・一太郎2019(プレミアムバージョン)
・上記に同梱されていたJustPDF4[作成]・[編集]
順を追って、作業のキャプチャも交えて説明します。
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いい人だと彼は言う。
自分がこれまでの生で受けた物を何も持たず無垢な心、無垢な体で生まれた同一個体。
赤子のように何の憂い無く見返す彼はいつか思い知るのだろうか、自分のオリジナルが酷く悪い奴であることを。
あるいはそれすらも受け入れてくれるだろうか。
りんはうーむと呻いて英語の字幕を追うのを諦めた。
「さっきの単語なんでああなるんだ」
「最近は10代の女の子用のスラングに変化しているって聞きました」
わかばは横で洋書を眺めながら答えた。
りんは少し考えてからわかばの服の裾をぐいっと引いた。
「Shut up. Kiss me」
「Of course.喜んで」
手が痺れてきた若葉は思わずぐいっと覆い被さっている彼女の体を押した。
「なんだ」
不機嫌そうに肩に口付けていた顔を上げ、唇についた鮮血を丹念になめ取る。
「いえ、あの、大分血抜かれたのでとても……」
「黙れ、さっさとしろ」
「はい……」
自分の血の匂いと味のする女への口付けは酷く奇妙で背筋がぞわりとした。
彼は自分が仕事を行いやすくするためにという程度の理由で疑似人格を与えられた存在であることを知っていた。しかし長い時間赤い霧に沈んでいた彼はやはりどこかが壊れてしまっているのだろうか。
「わかば、一緒にいたい」
自己診断を行っても現れないその感情と執着は別の形でAIの根幹を蝕んでいる気がした。
ワードパレットから 夢、牡丹、涙
朝露に濡れた大輪の花は涙のような雫を落としていた。りんは何処かで見たような…?と首を傾げた。横にいたわかばが牡丹ですね、と頷く。芍薬と同じ仲間ですよと言われて思わず咳き込む。気付いてか、気付いていないのか、わかばは思い出したように
「りんさんがくれた芍薬、薄ピンクの物はピロートークっていう種類なんですよ」
りんは思わず姉のしたり顔が浮かび呻きそうになったが、今はひとまず考えない事にした。
夢見心地でフワフワしている彼の心はだいぶ浮かれていた。
わかばは呻く。汗が頬を伝い思わず懇願した。相手はひどく楽しそうに盤面を見つめて王手をかけた。
「そ、そんな…」
「後手の場合思考をトレースできる僕の方が有利なんだ。さ、最後の一枚だね」
「う、うう……」
わかばは諦めて最後の一枚に手を掛けた。
「何してるのあの二人」
「脱衣……チェス?だそうだ」
りりとりんはよく分からんと言う表情で二人を眺めていた。
山の朝は早く、日が昇り始めるとどうしても目が覚める。
起きて外に出ると日課なのか既に彼が日が昇る様子を眺めていた。湿度が高いせいか木漏れ日が光の柱の様に差している。
神さまが降りてきたと昔は思っていたと言うと彼は素敵ですねと笑い立ち上がる。
誰もいない村の道を走って山へと向かう。
まるで子供だと言うと楽しそうですよ?と彼はさらりと言った。
イヤな奴。りんはわかばの背にとりあえず頭突きで抗議した。
姉の庭木の手入れを手伝っていたりんは少し手を休めて天を仰いだ。
雲は既に秋の様相で霞のような雲が広がっていた。風は僅かに冷たさを含み、陽の光は白を際立たせる色からこっくりした色に合う光に変わってきていた。
秋になったら…。りんはふと湧いてきた考えに思わず鼓動を早める。もし、もし会うなら燃えるような楓を描いた着物があったからあれを着ようかと、柄にも無く考える。
八月の終わり、躑躅屋敷はいつも通りの日常に戻っていた。
荒地の天気は変わりやすく、今も重く垂れ込めた雲から雨がしとどに降っていた。他方反対の窓から見ると雲間から光が差している。その様子を飽かず眺めているわかばにりんは何が良いのかと問おうとして唇を開き、思い止まった。遠くを見つめる姿は幻のようで、声をかけたら霧散し一人の現実に戻されるかもしれないと何故か思った。丁度良いタイミングで振り向いたわかばは、ひどくはしゃいだ様子で綺麗ですよと外を指差し、そうか、と答えた。
仮の同居人はりんの名を呼び、ふと唇を閉じて全てを見透かす様に笑みを浮かべた。
うだるような暑さとはこういう物かと言うと水兵を模した真っ白な制服が眩しい少女が可笑しそうに笑った。こんなので参っていたらもっと暑くなるよと言われて思わず呻く。
その口の前にジェラートをのせたスプーンが差し出され、思わず口に含むと少女が嬉しそうな表情を浮かべた。真っ直ぐに隠すことなく示される少女の思いに内心たじろぎ、思わず外に目を向ける。
カフェの前の向日葵は太陽と張り合うように黄色い花びらをいっぱい広げて咲き誇り、その影が風に揺れてチラチラと二人のテーブルの上に落ちて揺らいでいた。
ころり、とわかばが喉飴を転がす音にりんは目を向けた。休んでいればいいのに…とりんは付箋に平気かと書いて渡すと彼は頷く。ふと思いついてりんはいくつか質問を書いてわかばに渡す。少しすると他愛無い問いへ整った字で丁寧に答えが書いて渡された。りんは手の赴くまま一つ付箋にさらさらと質問を書いて、我に返って慌てて消して当たり障りの無い問いを書いて渡す。
チャイムが鳴り、席を立ったわかばが去り際そっと付箋に小さなメモをつけて机に置いた。
書いた付箋への答えは付箋の裏に。メモの方を見てりんの顔が紅潮する。消したはずの最初の問いの名残が跡として残っていたのだろう。
問い:私をどう思う?
答:好きです
耳に入ってくる隣を歩く彼女の歩く音から声、全てが弾むようなスタッカートでいつも不思議と軽やかだ。楽しそうですね、と言うと彼女は顔が赤くなって楽しいから、と言われた。
思わず鼓動が跳ねるのがわかった。
本当は、総体の時頑張っていた彼女を見かけて一目惚れしたのは自分の方だと、知ったら彼女はどうするだろう。
僕も楽しいです、と言うと何故か壁に向かって手をつくりんにわかばはしばらくは言えないかなと考え込んだ。
目が覚めると兄が見下ろしていて、おはようと撫でられる。おやすみと声をかけて起き上がる。明けの夜空は弟の目覚めと共に白んで来て、兄は入れ替わるように寝床に潜り込む。
昨日見た青と紫の紫陽花が朝露に濡れた様子を語る。
「僕は君のもたらす朝を知らない」
「僕はあなたがもたらす夜を知らない」
明日帰ってきたら話すよ、と兄は弟に微笑んだ。宝石のように瞬く天の星と小夜啼鳥の声の話をするよ、と出掛ける弟に言う。
裸足で歩く弟に付き従う朝の光で下界が照らされ始めていた。
その店を知ったのは夏の一番暑い頃で、熱中症になりそうだと思ってよく分からず手近に飛び込んだ店だった。もう何度目か、中に入ると店番の青年は笑顔を向け、カウンターに座ると今日のおススメです、と一杯のコーヒーと、レモンのタルトを出してきた。
殆ど貸切の店内で他愛無い話をして帰ろうとすると来週は休みだと告げられた。メニューを考えるためにカフェ巡りをするという彼は少し照れた表情で時間の都合が合えばどうですかと問われた。心拍数が跳ね上がり、二つ返事で了承していた。
ノックをしても出ない相手にりんはまたか、とため息をついてノブを回して中に入る。床に伸びている相手を軽く小突くと呻き声とともに顔を上げてりんを見上げる。最早朝の挨拶のような恒例行事だった。彼は靴音でそうだと思ってたと言いながら起き上がり、徹夜明けのおかしな高揚感からか、りんさんの歩き方は三拍子でワルツを踊ってるみたいですよねと嘯いた。変な誤魔化しをするならちゃんと寝ろとソファに足を払って沈ませると、寝ぼけているのか手を伸ばしてきた。こんな時でないとこういう事をしてこない男に、りんは本当にどうしようもない奴だと伸ばしてきた手に応えながら呟いた。
ちらちらと丁度良い心地の日差しが木々の間から降ってきて、わかばは喉を鳴らした。ぱたんと尻尾を動かすと、舌を鳴らす音がして塀の下を見下ろす。よくこの辺りを通る変わった髪形の女の人がわかばに手を伸ばしてきていた。ひらりと彼女の近くの塀に降りて、可愛らしげに鳴いてみる。わかばの腹の毛をなで回す彼女の顔は満足そうだがさっきまでチラリと見えた彼女の顔は随分疲れていたようだった。わかばは気になって名残惜しげに立ち去る彼女の後を追うことにした。
「ああ人間の姿の方が良いかな……?」
半端に残ってしまう癖のある耳を帽子で隠して、わかばは自分の体をチェックして彼女の後を追いかけた。
りりは試しにもらった一葉の橙に文字をしたため、書き上げた文章を見直した。使い方はわかった?と問うワカバに、りりは凄いねこれ、と言うと彼は嬉しそうにそう思う?りりは賢いねと言った。何を書いたのと問うワカバに内緒だよと言うと、ワカバはそうなんだ、と少し残念そうな表情を浮かべた。本当は後でヌシッちにお願いして渡そうと思っていた橙で初めて書いた手紙のようなものを、りりはポケットにしまい込んだ。
あの時直接渡しておけば良かっただろうか。渡す相手が居なくなったそれは霞む体と意識と一緒になって分解されさらさらと端の方から崩れて飛んでいってしまっていた。
何処からか漂ってくる香りに、わかばは目を彷徨わせた。どこからで何の匂いだろうと、村の中を歩いていると突然吹き抜けた風に思わず目を閉じた。そんな所で何をしてるんだ?と風が吹いてきた向こうの道からりんが現れた。
手にはわかばが探した甘い香りのする木を持っている。それは何かと問いかけると、金木犀だと渡された。正直な感想としてりんさんみたいにいい匂いですねと言うと、息を飲むような音と共に小突かれた。
シロと、呼ぶと慣れないヒトの体で走ろうとして前のめりに転がった。慌てて駆け寄ろうとしたが、走るために何か調整したのか、今度は危なっかしくも自分の所まで走って来た。偉いと褒めると元の形に戻ってぴょんぴょんと跳ね回り、再びヒト型に戻った。彼或いは彼女は名前の通りヒトとしてはまだ真っ白で、空箱の中に沢山物を入れるのが楽しいのだろう。美味しい物や楽しい物で溢れると良いね、と言うと箱は持ってないよ?と不思議そうに覚えたての首を傾げるポーズをした。
彼は自分の重々しい告白内容にため息をつき、こちらを見ていた。無理も無いとは思う。同じ容姿で恐らく同じくらいの知能を持っているはずの二人だというのに、やはりヒトというのはそう単純な物では無いようだ。うっかり者の自分を呪っていると、彼は内ポケットから財布を取り出した。
「ちゃんと財布は持ち歩かないと…とりあえず今日の分は…」
ピタリと彼の動きが止まり、首を傾げてから参ったな、と呟いた。
「お金下ろすの忘れてた…」
お昼の時間は既に残り10分を切っていた。
外の世界はぼんやり眺めていても飽きる事がない。
りんとりつは赤くなった空をわかばが見つけた川の側で眺めて思った。りなとわかばは何か見つけて騒いでいるようだった。りんさん!と興奮してわかばが手に何かを包んで持ってきた。手の中には仄かに光る…
「ムシと似た感じですよね。尻尾が光るんですよ」
二人とも来てください、と呼ばれて川辺に近づくと、沢山の光が明滅していた。綺麗ですねと同意を求められ、頷く。聞こえないだろうとありがとうと呟くと姉のような耳の良さでわかばは、えっと自分を見た。
暗がりに仄かに光る橙の葉を持ったまま、わかばはうたた寝をしていた。りんは珍しい事もあるものだとぼんやり眺めていた。あまり寝なくても良いと言っていたが、こういう時はなるべく寝かせるようにしていた。が…ほんの出来心はやはりある。手を伸ばして?を触る。すると何かモゴモゴと寝言を言いながら、わかばは、りんの伸ばした手に顔をすり寄せ頭と顎で挟み込みんだ。りんは手を引っ込める事も出来ず固まった。あたふたするりんはふと、わかばの?が僅かに赤いのに気づき、思わず小突いた。痛っ、とわかばは呻いて飛び起きた。
降っていた雨は止み、わかばは雨宿りに使った建物から顔を出した。一緒に来ていたりつも顔を出す。
「にゃー、水の音が一杯で良い気分にゃ……」
わかばはそうなんですか?と耳を澄ませてみるが首をかしげ、りつは笑みを浮かべた。
「今までは一杯耳を澄ませてようやっとだったから嬉しいのにゃ……わかば君とりんが頑張ったおかげにゃ」
「いえ、僕は特に何かした訳ではないので……ご姉妹みんなのおかげというか」
「そういうと思ったにゃー。わかば君、りんの事よろしくね」
わかばはええもちろんと言った後で少し考えて
「でも、りつさんやりなさんも、僕にして欲しいことあったら言ってくださいね?皆さん無理しちゃうというか……りんさんもですけど……」
りつは少しきょとんと目を瞬き、わずかに頬に赤みが差して
「わかば君はそういう子だったにゃ……」
大丈夫だよ、君の本来の力なら何とかできるだろう。
事もなげに、彼は言った。この人の他人を見る時の光のない瞳を知ってしまってから、彼が自分に柔和な笑みを浮かべ、目に興味の光が見えるのは、少なくとも自分を気に入っているという事だというのは分かった。酷い目に遭わされたが。ただ、この人は本当に計算しているのか、あるいは偶々なのか、心の隙間がわずかに開いたようなときにそっと自分が欲しいと思っていた言葉を与えてくれた。
この人は危険だ。
曖昧に答えて離れようとする自分の頬に手を伸ばす彼はまるで自分の合わせ鏡のようで酷く落ち着かなかった。
ぱっとわかばが手首を返すと持っていたはずの硬貨が消えた。
「どうやったんだ?」
「タネは簡単です」
こうやってと器用な指と手首の柔らかな動きを見せられ、硬貨が流れるように袖口に消えると、りんは首をかしげた。
「よく覚えたな」
恥ずかしげにわかばは頬を掻いて
「倫敦は白浪が多い物で……僕なんぞはよくこういう小手先の手品に騙されるからと友人達が色々教えてくれたんですよ」
「学者よりも稼げるんじゃないのかそれの方が」
「人前に立つのは好きじゃないです。一人のためにお見せするとかならまあ……」
いつの間にか袖口から出したのか、先ほどのコインをりんの手に乗せてわかばは照れたように笑った
りんはふと気付いてわかばに目を向けた。
「わかば、時々変わった匂いがするな」
「え、すみません、臭いですか」
「いや、甘いような…臭いとかではなくて」
「甘い…ああ…伯父の煙草かな?最近帰ってきたから移ったのかも」
外国の煙草とか吸ってたりするんですよ、とわかばは言った。家への分かれ道で少し立ち止まり、どうでも良い話をして時間を引き延ばす。
それでも結局日は暮れてしまうので、お互いまた明日と手を振る。名残惜しいのは自分だけ、なのだろうか。振り返って分かれ道を見ると、まだそこに立つわかばに気付く。笑顔で手を小さく振って歩き去る彼を眺めて、少し軽い足取りで踵を返して歩き出した。
姉の耳は風にぴくりと揺れて向きを変えた。今までなら何か警戒が必要な物を探していると思ったが表情を見るとただ漫然と音を聴いているだけのようだ。声をかけると目を開けてこちらを見上げてきた。さわさわとミドリが風に葉を揺らしている。
「水が一杯だとこんなにすぐ大きくなるのニャ」
顔色の良くなった笑みにつられて笑うと姉はこんな日が来るなんてね、とポツリと呟いた。
姉さんとりなのおかげだよと言うと、姉は照れた様に微笑んだ。ぴくりと姉の耳が何かに気付いて
「あ、わかば君こっちに来るニャ」
りんは思わず振り返り、姉にまだずっと向こうニャと呆れられた。
彼は話しだした。
自分の世界は一枚の薄い膜を通したが如く、全てがぼやけて虚ろで音も届かないか、或は酷くくぐもって聞こえる様であった。
色彩は死に、耳を傾ける音のない世界。
だから今はとても嬉しいんだよ。鏡を見るように向かい合う同じ容姿の人間が全く楽しそうに生きている。これ程興味深い事は無い。
清々しい程に理知的な眼差しで彼は自分を見つめた。
いっそ狂人であれば良かったのにと、わかばはぼんやりと考えた。
りなは日課の見回りの途中で奇妙な形の物を見つけた。
「お宝かな?ごちそうかな?」
拾い上げたそれは一般的には盃の様な物だったが彼女はそれを知らなかった。
「ひょいぱく」
齧ったそれは口の中で崩れて無くなり、少し考え込みながらうーんと首を傾げた。
「もっと無いかなー」
砂浜を歩く彼女は遠くに見える水平線を眺めて
「まだかなー」
何を待つでも無く呟いた。
船体底部のデータプールに転送された事を確認してワカバはひとまず成功だなと頷いた。まさかそこに、りり自身を分割した姉妹?が居たのには正直頭を抱えたけれど。あの聡い子ならリスクを理解した上で、きっとやるだろうし、やった結果は目の前にいた。やっぱり気が動転していたのだろう、あの子にとっての時間と自分の時間は違うという基本概念すら忘れていた。
ハ イ ケ イ、 ワ カ バ サ マ
データプールの海の中を歩く自分の周りを彼女とともにここに流れ着いた何かの影響かキラキラと彼女の居るだろう方角から橙色の葉の欠片が流れてくる。
イ ソ ガ シ イ ノ ニ
オ シ エ テ ク レ テ ア リ ガ ト ウ
初めて橙の葉を渡して使い方を教えたときに、何か隠れて書いていた事を思い返す。
これは何だろう。
四人で拾い集めながら、考えてみるが結局本人に聞かないと分からないね、と話は決まり、流れてくる葉の先を目指して歩き続ける。
ズ ッ ト イッショ ニ イ ヨ ウネ
欠片の流れる密度はやがて小さくなり、とある抽出した建物から流れていた。
書かれている内容はいつも彼女が言っていた当たり前――あのときは当たり前だったことが書かれていた。わざわざ文字に起こしたのは何故なのか、それが地球の人のやり方なのか。聞きたいことはたくさんある。
啜り泣きと謝罪の言葉が聞こえてくる建物の中へ、ワカバと姉妹達は足を踏み入れた。
りりは試しにもらった一葉の橙に文字をしたため、書き上げた文章を見直した。使い方はわかった?と問うワカバに、りりは凄いねこれ、と言うと彼は嬉しそうにそう思う?りりは賢いねと言った。何を書いたのと問うワカバに内緒だよと言うと、ワカバはそうなんだ、と少し残念そうな表情を浮かべた。本当は後でヌシッちにお願いして渡そうと思っていた橙で初めて書いた手紙のようなものを、りりはポケットにしまい込んだ。
あの時直接渡しておけば良かっただろうか。渡す相手が居なくなったそれは霞む体と意識と一緒になって分解されさらさらと端の方から崩れて飛んでいってしまっていた。